言語は私たちと世界を結ぶ媒体の役割をなす。子供は幼少期に差し掛かる頃、言葉を覚えながら社会に触れ合っていくのだ。そこで2種類の異なる言語を同時に覚えるとどうなるのだろうか。以前は幼少時代に複数の言語を扱うことは、子供の混乱に繋がるため良くないと見なされていた。しかし1962年、ピールとランバートの研究により、バイリンガルの環境で育った子供はメタ言語意識に優れ、つまりは数学などの言語領域外での問題解決能力が発達しているという見解が挙がった。また、認知学者のレラ・ボロディスキーはバイリンガルとそうでない人の間には、色彩認識や時間認識に違いがあることを明らかにした。
認識力への利点がわかったところで、一般的な疑問として挙がるのが、バイリンガルの人は意図的にどの言語を使うか選ぶのか、その選択は安易さ、文脈、又はどちらの神経がより発達しているかによって決められるのか、などだろう。
2つの言語を同時に扱うとは、言葉だけでなく概念をも複数持ち合わせるということである。例えば、フランス語の「バゲット」とドイツ語の「ブロート」。両者ともパンを意味するが、前者は温かく黄金色のカリッとした、コーヒーやチーズに浸して食べたくなるパンを連想するだろう。対して後者は、焦げ茶色の穀物を多く含んだ、コンパクトでしっとりとした、ヘルシーで満腹感のあるパンを意図する。直訳すると同じ意味でも、その言葉が含む記憶や感情、文化的背景は其々にあり、バイリンガルの人はどちらの概念も持ち合わせているのだ。共感覚(ある事柄に対し複数の感覚を呼び起こす知覚現象)の概念とそれは似ていて、ある1つの事柄に対し様々な感情や文化的意味を連想することができるバイリンガルの人は、認知的柔軟性が豊かで創造性に長けている人が多いという。
国際連合加盟国の内わずか13%が公用語に一言語を用いている。そのわずか13%の国で育ったとしても、まだ諦める必要はない。第二言語を学ぶということは脳に刺激を与え鍛えるトレーニングのようなものだ。その上、第二言語を学ぶことで、人生観が広がり、より創造的に、自信に満ち溢れ、さらに多くの言語を習得する窓口になることもある。故にバイリンガルになるということは自己開発に繋がるということである。